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大阪高等裁判所 昭和39年(ネ)1680号 判決

理由

当裁判所の事実の確定ならびに法律の判断は、次に記載するほか、原判決理由に記載するところと同じであるからこれを引用する。(但し、右理由三枚目裏二行目「完済まで」に続いて「手形法所定の年六分の割合による利息金」を加える。)被控訴人は(1)(2)の各手形についても各手形金およびこれに対する「商法所定の年六分の割合による遅延損害金」を求めると述べるが、すでに、被控訴人において本件(1)(2)の各手形を満期に呈示した以上、被控訴人は右各手形金とこれに対する手形法所定の年六分の割合による利息金」を請求しうるのであるから、その範囲において被控訴人には右手形金に対する損害賠償請求権の発生する余地はないものといわねばならない。しかしながら、被控訴人が「遅延損害金」というのは右各手形金に対する年六分の割合による金員に対する法律的見解に過ぎないものと解せられるからこれを上記のとおり法定の利息金として認容するのが相当である。)

一、原審における控訴人代表者の供述中に「どうにもこうにも致し方がないので私も前後不覚の状態になりまして約束手形三通を書いたわけです」との部分があるが、右部分は、《証拠》と対比すると、いまだこれを以て控訴人代表者がいわゆる絶体強制により、抗拒不能の状態の下に、手形振出の意思なくして手形に署名押印せしめられたものとは認め得ず、当審における証人笹庄七、同浜口たけ乃、控訴人代表者の各供述を以てしても、いまだ右事実を認めるに足らず、ほかにこれを認めるに足る証拠はない。

二、当審において控訴人代表者は、被控訴人が本件手形を取得するにつき控訴人代表者に問合せたのに対し、脅かされて振出したものだとか無理やり書かされたものだとはつきり答えた旨の供述をするが、右供述は、《証拠》と対比し、容易に措信し難く、ほかに被控訴人が本件手形を悪意を以て取得したことを認めるに足る証拠はない。

三、けだし、手形行為は不特定人間を転輾流通すること予定される証券上の行為であるから、特定人間の取引における利害の調節を念とする民法総則の適用を受ける一般の意思表示と異り、表示の信頼は強く保護されなければならない。従つて、手形行為者が、他から絶体的な強制を受け抗拒不能の状態において手形行為の意思なくして手形に署名せしめられたような場合は格別、いやしくも自己の判断において手形に署名する意思を以てこれをした以上、右手形行為による手形上の義務(権利)はこれによつて成立し、たとえ強迫等によつて右行為が行われその意思表示に瑕疵があつたとしても、右意思表示の瑕疵に基づく取消の主張は一の人的抗弁にすぎず、右手形行為者は、その強迫を加えた者に対しては手形上の義務の履行を拒み得ても、善意の手形取得者に対してはこれを拒み得ないものと解するのが相当である。

そうすると、被控訴人の本訴請求は正当であるからこれを認容すべく、これと同旨に出た原判決は相当で、本件控訴は理由がない。

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